さまざまな特許権と特許契約
突発的な単独特許
まず重要な発明をして、それの特許を取り一社独占で巨額な利益を上げる例である。多くの特許の勧めのような本にはこのような事例が書かれている。
代表的なものではワットの蒸気機関の特許がそれである。今までにない発明であって、それもワットの工場で実際に完成品として作られ、必要な数量の製品が供給できたのである。これに似たものとしてはエディソンの電灯などが挙げられよう。しかし、大抵の人はこのような発明に恵まれない。だから一世紀に数人しかいないような発明者を参考にしても役に立たない。ほとんどの発明はもっと目立たないものであり、大勢の人が似たようなことを考えているものである。
素人や主婦の発明で稀にここに分類されるものがある。電気洗濯機の浮いているごみを取り除く袋である。これは電機メーカー各社が特許料を支払った。
網を掛ける特許
ある企業が非常に優秀な発明をした場合、それに関係ある様々な特許を取って、他社の開発意欲を押さえ込もうとする、それを特許の傘 (umbrella patent)と呼んでいる。はじめドイツのIGファルベンがこのような特許の取り方をしたので、その後慣用的に使われている。これはあくまである技術を一社独占し、他社の開発意欲をそぐのが目的である。日本でもこれに似た特許の取り方をしている例があるが、人間のやることなので、完全な網は一社では作れない。
パテントプール
ほとんどの技術は錯綜していて、一つの会社なり個人では、自分の出願した特許だけで製品を作ることができない。この場合、複数の企業が自社の特許を提供して、相互に使用する体制を作る、それが特許プールである。
これは一九世紀にアメリカで行われたが、古くから裁判所で違法とされ、それが後に特許のカルテルや買い占めを発生させたのである。
また第二次大戦前にドイツが化学の分野で特許のプール会社を作っている。
最近ソフトウェアに発展に伴って、多数の企業やベンチャービジネスが特許を取得したため、一社だけで充分な技術を作り上げ、製品化することが不可能になってきた。そのため国際的な規模で非独占的なパテントプールを作ることが検討されている。
その代表例がMPEGという画像や音声情報の圧縮プログラムで、これにはアメリカのケーブルラボを中心に、サイエンティフィックアトランタ、ジェネラルインストルメンツ、3DO、フィリップス、トムソン、それに松下、ソニーが最初のワーキンググループを作り、その後AT&Tやコロンビア大学、日本では三菱電機と富士通が加わっている。
これらの企業はパテントプールで独占組織を作ると言うよりも、各社が持っている特許が相互の技術開発を阻止ししないことを目的としており、独占を目的とした従来のプールとは非常に異質である。
パッケージ
様々な分野での技術開発をしている企業では、ライセンス契約を簡単にするために、特許権をいくつかのグループに分けて、それで一括して契約をすることがあった。戦後のテレビ技術などではこのようなケースが多かった。ただこの方式で行うと、特許を購入する方が、自分の使わない特許について、実施料を払わなければならないため、後に多くが反トラスト法違反であるとされるようになった。ただ特許権が多数あって、それを特許組合のように大勢の人に実施権許諾する際には便利な方法である。
クロスライセンス
非常に一般的な特許権の取り扱いである。パテントプールの項で述べたように同じ様な製品を作っている企業が多数あるので、一社では製品の全ての部分を覆うだけの特許を取り切ることが出来ない。また自社製品に改良を加えると他社の特許を侵害してしまうことも有り得る。このような場合、相互に特許権を使用する契約(ライセンス契約)を行う。相互に権利を与えるので、一方からだけではなく、クロスという。
一般に、一つのクロスライセンスで扱われる特許権の数はとても多い。既に見たように、液晶の出願ではシャープが一九九一年だけで八六二件、松下電器産業が一九九三年に五八五件出願している。もし両者がクロスライセンスをすると、その対象となる出願の数は数千になることが明白である。このようなクロスライセンスの数を、バケツで鰯を数えるように、バケツで何杯というような取引と呼んでいる。特許権は一尾ずつ数える鯛ではないのである。
クロスライセンスは必ずしも契約によるものだけではない。暗黙のクロスライセンスとでも言うものがある。自分の会社が作っている製品が、知らない内に、別の会社の特許権を侵害していた。それでどうするか。相手の会社が作っている製品中で自社の特許権を侵害している部分を探しておくのである。この場合、同じ製品でなくても良い。自社は電子レンジで相手の特許権を侵害しており、相手はテレビでこちらの特許権を侵害している。このようなものは必ず見つかる。それで「待ち」の姿勢にはいる。もし相手が自分の方に特許権侵害の通知を送ってきたら、こちらも相手の侵害の事実を通告して、相互に特許料の支払いを無料に持ち込む。
第三章で述べたように、ミノルタがハネウェル社の自動焦点調節の特許侵害で多額な支払いをしたのに対し、リコーは、自社の気体流量計の特許をハネウェル社が侵害していると主張して、クロスライセンスに成功し、僅かな支払いで済ませてしまった。企業は、このようなクロスライセンスの取引材料を絶えず用意していて、自社の製品が他社の特許権侵害となって製造できなくなる事態から、守っているのである。
したがってクロスライセンスは、必ずしも双方の合意に基づくものばかりとは言えないのである。むしろ双方が防衛的に相手の製品を分析したり、また相手の製品が使いそうな技術について特許を取ったりして、お互いに相手から一方的に特許権侵害だと言われないようにして、自社を守っているのである。
このような葛藤は暗黙のクロスライセンスを形成している。
企業は自社製品を改良するためと、このようなクロスライセンスのための取引材料と、その双方の理由で出願する。しばしば詰まらない出願が沢山あるというのはそのためである。
以上のような各種の特許契約で一番注意しなければならないのは、クロスライセンスである。
今ベンチャービジネスが、自分の開発したものを自社でも製造しようとすると、後発メーカーの出願した特許権に抵触する。そしてクロスライセンスに持ち込まれるので、特許料収入がなくなる。一方、このベンチャービジネスが特許を他社に売ってしまったり、クロスライセンス契約に持ち込まれるような製品を作らなければ、特許料は満額貰える。しかし自分の開発した技術を自分では作るな、とは、発明者が技術者である以上、とても言えない。だからベンチャービジネスにとって、クロスライセンスに対抗する戦略が考えられなければ、この世は闇なのである。
これと逆の形になるのが、異業種間の問題と素人発明家の特許である。
ある企業に部分品を納入する異業種の企業は、その企業と同じ製品を作ってはいないので、その企業の特許を侵害することがない。先年印刷機会社が、パソコンメーカーに対して、液晶基板の作成の特許料を支払うことを求めたことがある。この場合、パソコンメーカーは液晶を使うものの、液晶印刷の技術を開発する会社ではパソコンの特許は不要なのである。それゆえ特許料が印刷会社に支払われることになるが、この場合は製品の売り手・買い手という取引関係にあり、必ずしも多額の支払いとなるとは限らない。
これと同じことが素人の発明家について言える。素人の発明家は自分では製品を作らないから、企業は別の特許の使用料と交換することができない。したがって特許料を全額支払わなければならない。よく発明家が多額の収入を得たという記事があるが、それはこのような事情があるからである。
なお、中小企業のグループが技術開発をして成功しているやり方として、技術を公表しないで(特許出願しない)、相互に技術交流し、製品販売後に他社が類似品を製造するまでに利益を上げてしまう方法がある。この他社とは当然ながら真似をしたがる大企業であるが、特許の公開公報がないためにリバースエンジニアリングを掛けないと技術が真似できないのと、製品が既に販売されているため新たに特許を取ることができないという長所がある。ただ自分も特許を取れないので、製品が継続的に売れるようになると損をするかも知れない。
特許料と特許の資産評価
ベンチャービジネスが重要な発明をした場合、その収入や特許権の資産評価が有利に展開しなければ、開発は無意味になる。重要な発明が現れた場合、それを大企業が後追いすることは当然予想されることであり、そのこと自体は非難されるべきではない。しかし最初の発明者には充分な報償が与えられ、その企業家や権利の売買に一定の補償が与えられなければならない。そのためには特許料や特許の資産評価が客観的に行われ、かつ最初のオリジナルな発明と後の改良発明に特許料の開きが与えられる必要がある。
一般に特許料は、製品一個につきその特許の対象とする「価格」の一定の比率で決められており、特許料総額はこれに製品の出荷数を掛けたものである。つまり、
一個の製品の「価格」x一定比率=製品一個の特許料
製品一個の特許料x販売数=特許料
と言える。また一年の特許料が分かれば、それを特許期間で積算するとその総収入が得られるから、特許の資産価値が算出できる。
特許料は例えば製品の価格の三%とされており、一時期この比率は一〇%にまで跳ね上がったことがある。この比率もさりながら、最近は何をもって製品の「価格」とするかの方が重要になっている。
従来は、製品価格の内、特定の発明に関与する部品を決めて、その部分の製造原価に対応する価格、というのが一般的に行われていた。それがポラロイド対イーストマンコダックの裁判で、特定の発明によってある製品が大量に売れたのであるから、製品価格全体をもって価格とすべきだという主張がされて、それが認められたため、その判例にしたがってなされたミノルタの事件では、一六九億円という巨額な損害賠償が認められた。
これはその独特の製品自体が消費者の選択の対象となるのであるから、損害額は特定の部分、例えば独特の制御機構の価格に対する特許権の実施料だけではないと言うのである。
その後、非常に無茶と思われる特許権料の請求が行われるようになった。例えば一〇〇万円の自動車に備え付けられた一〇〇〇円の液晶表示装置が特許権侵害であるとして、自動車の価格の二%の特許料を要求するといった具合である。
この算定方式には、損害賠償額が高すぎるということを除いても、違和感がある。
本来特許料収入は、発明者の保護と消費者の利便の均衡の上に成り立つものである。したがって製品価格における全ての特許の特許料総額は一定の比率を超えてはならない。それが従来の三%などの形で慣行的に決められていたのである。
反トラスト法規の考え方からすると、イーストマンコダックの例やミノルタの例には無理がある。
特許料というものは、本来、製品の販売価格なり製造原価の中での一定の比率を占めるべきものである。今、ある製品の一部分に対する特許権の実施料として非常に高額な、つまり完成品全体の価格に対する特許料の総額と同等の額を要求することは、他の特許権に対する支払いを別に行わせることになるから、その特許権に対する支払いによって他の特許権に対する支払いが不可能になるか、または双方を支払うことによって製品価格が上昇する、ということになる。
このことは、その特許権者の優越的地位の行使による取引制限ではないかと思われるのである。このような議論は未見であるが、算定方式について反トラスト法規との兼ね合いを詰め直してもよいように思われる。
ところで、特許料を製品価格の一定率としても、何をもってその価格とするかが決まらないと、特許権というのは合理的な資産とはなり得ないし、また売買できない。
これらの場合、知的所有権の資産価値が不明のまま放置されると、ベンチャービジネスがクロスライセンス契約に引き込まれて、泣くことになる。またベンチャービジネスにとっての死活問題として資金調達がある。その際に特許権を担保として銀行などからの資金借り入れをしようにも、その評価が定まらないから、特許権が簿外資産になったり、単なる事情になってしまう。
現在知的所有権が二〇世紀で残された参入障壁や貿易障壁の最後であって、次世紀に向けてその経済的な位置づけが重視されている以上、この問題は、本書では避けて通れないのである。
資産評価は、日本では土地などの相続の時くらいしか議論にならない。知的所有権は多くの場合簿外の資産とか含み資産として扱われ、固定資産の付属物として扱われる。最近このような傾向を打破する方式も現れたが、やはり遣り難さが残っている。客観的な評価基準がないからである。
国税庁資産評価企画官編『財産評価の実務−相続税・贈与税・地価税における財産評価法』(ぎょうせい)でも無体財産権のうち特許権について次のように述べている。
「特許権の特質はきわめて類型性の少ない点にあるので、売買実例比準方式による評価方式はほとんど採用の余地がないことである。したがって、特許権の評価に採用し得る方式は、その収益力を基本として評価する収益還元方式又はその取得に要した費用を基本として評価する費用現価方式のいずれかであるが、後者の方式は、企業会計における取得比の算定には適応し得ても、財産評価の際の適正時価の算定には合理性を欠くうらみがあるので採用することはできない。」(一八四頁)
ある資産の価値評価は、収益還元方式、コスト積み上げ方式、市場価格比準方式などが用いられる。
これらを簡単に説明しよう。
収益還元方式は、その資産により一年にはいる収入を、将来の収入はその複利の利率で引き下げ、積算する方法である。一年に一〇〇万円入る資産があれば、今年の収入は今から一年後に一〇〇万円になる現在の銀行預金の金額、来年の収入は二年後に一〇〇万円になるような現在の銀行預金の額、再来年の分は・・・、というように積算していく。つまり将来の収入の合計を現時点の銀行預金の額に還元して金額を決めるのである。
このやり方は一年の収入をA、複利での利子率をα(通常は八%)とすると、その資産価格Pは
第一年分 第二年分 第三年分
A A A
P = ------ + ----------- + ----------- ・・・
1+α (1+α)2 (1+α)3
というように、権利期間だけ積算して得られる。要するに資産価値は毎年の収益の総額を現時点で還元したものである。
以上述べたことを見ていくと、収益還元方式では補償金額(前出式のA)が決まっていれば、評価の総額(原価)は得られるが、その元となる補償金額は算定方式が確立していない。コスト積み上げ方式が研究開発に適用できないことは述べたので、市場価格批准方式しか残っていない。したがってこれに近い方法で算定して、それを収益還元方式で積算する他はない。
このように具体的な金額の定め方が不確定のままでは、知的所有権制度は何時まで経っても経済活動の中心にはなれない。そこで、客観的な特許料算定方式が求められないか、制度の基本に戻って検討してみよう。
特許料算定の基礎
本来発明は人間社会を発達させるものである。したがって発明者は社会的に報償されなければならない。しかしその基準を国家や国民が定めるのは容易ではない。したがって、ある期間発明品の販売の独占を認めて、その儲けを発明者への報償とする、というのが現在の知的所有権の基本理念である。したがってそこで根拠になるのは、製品が売れるということと、製品を受け容れた消費者の価格的判断である。
ここで特許料は、特許された機能を持つ製品の、販売価格における上積み分になる。この解釈は並行輸入の際の特許料や商標料の取り扱いで確立している。そして特許された機能を持つ製品は、他の一般的な製品に比べてそれに対応する特許料の上乗せ価格を持つことになるから、特許料はその中に含まれることになる。
次に、特許料は製品価格を極端に押し上げてはならない。それは、このような知的所有権の独占を認める社会的合意に反するものであって、権利の濫用となり、消費者の利益に反するものであるから、反トラスト法規違反となりうるのである(なおこの考え方はまだ一般的ではない)。特許料は、総額が商品価格の一定割合を超えてはならないものである。
それで、いまある特許発明を使った(または搭載した)製品の市場価格が得られ、それを他の商品の価格との比較できる場合、そこから客観的に特許料を算定できないであろうか。これが、本書の解決しなければならない、一つの課題である。
発明は、製品となって人間のに役に立つものである。だから製品化されない発明には本来価格がない。また特定の発明を用いた製品は、何かの点で効用(商品の品質)が変わっており、そのために消費者から歓迎される。品質の変化は市場価格において上乗せ価格を許容しているが、これは特許権が製品の平均的な価格に、さらに一定の投資資金回収のための上積み金額を認めるのとよく対応している。したがって、ある発明の特許料を算定するための基準となる価格は、この上乗せ価格の内、その発明によってなされた部分をどのように分離するかということから始まる。
従来は基準となる価格の分析に製品原価のうち特定の部品の価格を算定してそれを基準として特許料を算定していた。先のイーストマンコダック対ポラロイドやハネウェル対ミノルタの事件で打ち出された論理の一つは、製造原価の比率ではなく、消費者の選択による価格を取るということである。特許料自体は製品価格の中で配分されるものであるが、その配分方式は製造原価ではなく、消費者の選択に基準を置くものでなくてはならない。そして商品の市場価格や販売量は、予測という観点からすればマーケティングの領域になる。
先日明らかにされた、ある電話機の市場調査では、リダイアル機能についてはアンケート回答者から必要という回答が多かったというが、留守電の録音については不要という回答が多かったそうである。
これを事例として、製造コストと市場価格を比較してみよう。
製造コストで考えると、何の付加機能もない電話機に、リダイヤル機能をつけてもあまりコストが上がらないが、留守電録音をつけるとかなりのコスト増が必要となる。
しかし市場価格では、リダイヤルだけのついている機種の方は、需要が大きいので、あまり値下げされないが、留守電録音だけのついた電話機は、需要が少ないから、大幅にディスカウントされることになり、留守電録音の部分のコストは回収できないことになる。したがってその部分の収入や特許料収入は共にマイナスになる。
同様に、日本語の仮名漢字変換を連文節変換で行うプログラムである、管理工学研究所の「松」は初期に著作権の行使にこだわり、さらに開発経費の積み上げからか、一〇万円を超す高額な販売価格を決めた。これが普及しなかったことはよく知られた事実である。一方、「一太郎」は、開発者がその値頃感から五万円程度とし、コピーのできる状態で販売したため、事実上日本語ワープロの基準となってしまった。九四年一一月に積算二五〇万セット販売されたと言うが、「一太郎」のバージョン三は広くコピーされたので、たぶんこの三倍程度が流通していると思われる。NECの九八マシンの販売数がほぼ一〇〇〇万台であるので、この機種の購入者が全て「一太郎」を使用していると考えてもそうおかしくはない。要するに新技術の価格は、消費者がその商品を満足と共に受容する価格なのである。
商品は、取引が成立して初めて価格形成されるものであり、その価格は値頃感のある商品価格を前提としなければ無意味であるから、特許料の算定も値頃感を与える市場価格から出発して、その分配率を決めていかなければならない。このような現象はすでに、品質と価格という、商品に関する基本的な問題として議論されていて、経済学や商品学、マーケティング等の分野においては別段目新しいものではない。したがって新技術を搭載した機種の価格はある程度予測できるのである。
それで、ここではパテントマップの使い方とヘドニック・アプローチ(hedonic approach)を用いて議論を進めていく。パテントマップは、ある製品の技術の中で、そこで用いられている新技術の特許を確定するために必要である。また、ヘドニック(hedonic)はギリシャ語の「快楽(`ηδον´η)」を語源とするもので、ヘドニック・アプローチとは、ある商品がそれを市場で購入した消費者を満足させる度合いを、商品特性の属性(特徴)毎に対応する価格の割合から求めていく価格分析の手法である。パテントマップについては既に第三章で説明しているのでその用い方について述べ、ヘドニック・アプローチについて説明し、それから特許料の算定について述べていこう。
資産評価の技術的側面
今ある発明なり技術的特徴が製品に組み込まれたとしよう。ある技術的特徴、例えば電気洗濯機にファジーを組み込んだり、電気釜の特性を制御したりする場合に、当然ながら従来からの電気洗濯機や電気釜の特許が多数存在する。さらに新しい技術的特徴に関する特許は一つであるとは限らない。いままで見てきたように多数の特許がひしめいている。だからまず従来の技術の特許と、新技術の特許を区別しなければならないし、新技術の特許にしても、その一件々々の特許料を算定するのは無意味になってくる。
それでここでは、一人の特許権者(または実施権者)が持っている、ある特定の技術についての特許権全体を、ひとまとめのグループとして判断する。一つのグループに特許権が一つだけかも知れないし、多数あるかも知れない。ただ、それを持っていることによって、ある技術が実施できることが必要である。
この定義の仕方はあまりはっきりしない。それは複数の特許権のグループがあって上下関係にあったり競争し合ったりしていて、複雑だからである。それでいくつかの類型に分けて検討する。
なお、このような特許権の分類を行うのには、既に第三章で述べたパテントマップが不可欠である。本来パテントマップの作成は製品開発をする者が真っ先にしなければならない業務であり、このマップは自体は非常に客観的なものである。だから特許の資産評価をするためには、当然同じところから出発しなければならない。自分が重要な発明だと思っていても、また誰かが重要な発明だといって売り込んできたとしても、このマップ上での先行技術や具体化上の制約などの検討は欠かせない。
それで、今分析しようとしている製品のパテントマップを作って、その上で製品のそれぞれの技術的な特性毎に特許権を分類していく。もちろん他社の特許権についても同時に同じ作業が行われる。これは後で相対評価をするのに重要である。このような分類ができたとして、話を進めよう。なお、既に述べたように、ここでは一つの新技術にいくつの特許権があるかは問題としない。全て一括してグループとして考えることにする。
A 完全なパイオニア発明の特許のグループ
先に述べた超音波モーターの最初の発明者ような事例である。
B 改良発明の特許のグループ
超音波モーターで各企業が行ったような発明である。
C 自社で実施を保証するための特許のグループ
ほとんどの特許はこれに属する。
まずこのように特許を分類すると、それぞれの特許料は次のようになる。
Aはその技術を使う全ての企業に対して実施料を要求できる地位におり、その技術を使った製品全ての上乗せ価格から一定の率の特許料を取ることができる。
Bは自社のこの技術を使った製品について上乗せ価格からの実施料を得られる。ただこの場合製品価格に含まれるので、事実上は特許料収入がない。
ここに一つの製品があって、新しい技術を使って(搭載して)いたとしよう。そしてその技術の創作者はその企業の外の者であり、その企業も大量の開発投資をしていたとしよう。つまり最初の発明者甲の特許Aと企業乙内の改良の特許Bのグループがあったとする。なおAとBが一つの企業に属する場合もあり得るが、Bのない製品はまず考えられないのである。
この場合、製品の上乗せ価格の内、この技術による寄与分を解析して、次にAとBの配分比を決定しなければならない。ここで重視しなければならないのが、パイオニアの比重を相当度評価する必要があるということである。大企業の論理は、自社における開発(実用化)研究の経費や開発に要した期間などを主張する。しかしこの場合オールマイティーのカードを持っているのはAである。Aの発明がなければ、Bの製品は存在しなかったであろうが、Bの改良研究は別の企業がやっても良いことであって、乙社である必要はなかったのである。だから実施化において優先権があるとしても、それは絶対的なものではない。
このように考えると、AとBの比重は、例えば合弁会社の出資比率のように、六対四とか五一対四九とするのが妥当である。ともかくAにとって有利でなければならない。
ここで問題にしなければならないのがクロスライセンスである。甲は自社の製品を作る。乙も自社の製品を作る。この場合に相互に権利使用の関係になるので、お互いの特許料を支払わないという慣行がある。これが日本のベンチャーを発達させない原因の一つになっている。しかも日本の場合、いわゆるベンチャーキャピタリストがいないので、資金負担や法廷技術などの面での弱者の味方がいない。小さな企業の方が負けることは火を見るよりも明らかである。
Cは上乗せ価格を持てない例である。他の企業が作っている製品を後追いする形になっている。企業は、多くの場合、系列販売店に製品を供給する必要があったり、その他の理由で後発企業が参入してくるのであるから、上乗せ価格では特許料が算出できない。ただ企業がその製品を後発企業として作りたいが、自社が有効な特許を持っていないために製造ができないときに、かなりの高額で他人の有効な特許を購入し、自社でその製品を作ることである。この場合売り手市場となるので、金額が言いなりになる。
資産評価の経済的側面
このようにして製品の特徴毎に特許料を分配するとして、問題になるのが、商品の価格のうち、特定の機能なり属性に対応した部分をどのように評価するかと言うことである。
商品には、自動車で言えば車の大きさ、馬力、ドアの数など、各種の属性が考えられる。これらの数値や有無と市場価格の相関が得られれば、そこから特定の属性の寄与する係数が決まる。その手法として現在あるのがヘドニックアプローチである。それでその学説について簡単に説明しよう。
ここではその参考文献として取りあえず次の三点を表示しておく。
太田 誠「生産財についてのヘドニック・アプローチの理論的基礎」
季刊理論経済学三〇巻一号(一九七九・四月)
伊藤・松井「乗用車に関するヘドニック指数の作成」
統計局研究彙報三二号(昭和五三年一一月)
南部・杉原・池田・津本・三田村・佐藤・田代「サービス質の計測(一・二)」
大蔵省財政金融研究所フィナンシャルレビュー一九九三−三月、一九九四ー一月
例えば四ドアーの乗用車の市場価格が三ドアーのものに比較して一〇%高いとしよう。これは消費者が四ドアーの必要性(快楽的属性)を認めて、それだけ余計に金を支払っても差し支えないと考えている価格の伸びである。これと同じようにリクライニングシートならとか、トヨタの車ならとか、様々な快楽的な属性が価格に影響することが考えられる。
それでこの方法ではまず、属性と価格の関係を示す属性方程式を作る。
いま製品の市場価格をP、その製品の様々な属性jの値をZj、誤差項をUとして、製品iについて観測時点tで市場調査をするとして、次のような式が得られる。
Pit = f(Z1it,Z2it,Z3it,・・・)+ Uit
経済学においては線形半対数の形の式が使われるので、ここでも同じように書き直して、
k
log Pit = a0+Σ(ajZjit)+ Uit
j=1
とすることができる。なおZjは多くの場合あるとなし(一とゼロ)である。それでこれの回帰計算を行う。つまり多数の製品について価格や属性のデータを取り、それで連立方程式を解くのである。
k
Pit = p0+Σ(pjZjit)+ Uit
j=1
わかりやすく説明するために例を挙げよう。先に述べた電話機で留守番電話録音のある製品とリダイアルのついている電話機、その両方がついている電話機の市場価格がそれぞれ一九、〇〇〇円、一九、七〇〇円、二〇、〇〇〇円としよう。メーカーの希望価格とは裏腹に留守番電話録音は売れないで安売りされたという設定である。そうすると、19,000円 = 電話機本体 + 留守電録音 19,700円 = 電話機本体 + リダイアル 20,000円 = 電話機本体 + 留守電録音 + リダイアルこの連立方程式から電話機本体、留守電録音、リダイアルのそれぞれの価格を出すと、
電話機本体 = 18,700円 留守電録音 = 300円 リダイアル = 1,000円となる。
特許料の具体的な算定例
まずある種の機能を搭載した商品が、それによって商品価格を上げる場合について考えよう。
ここで、ヘドニック・アプローチの考えを用い、特許権料の具体的な算定をして見ることにする。ここで取り扱う事例は、全て写真機であるが、それは著者にとって技術的な分析がしやすい分野であることと、国際特許分類表上で纏まっていて、解析が簡単なことを条件としている。なおここで行うのはあくまでモデル的な計算である。
最初に各社の類似製品の市場価格を調査する。次に、これらの製品から、前年の各社機種の内、最安値のものの価格を基準とし(ここでは企業の分配価格をゼロとして計算する)、注目する新機種が発売された年の各社の最安値機種から、企業価格を求め、次に新機種の最高額のものを、新たな改良技術を有するものとして評価し、価格の差を求めた。したがって、ここでいう企業の分配価格は、企業のブランド価格とその最安値製品の積み上げ価格に対応している。
製品の市場価格からこれらの要素に対応する価格を引くと、新製品の技術的な特徴による値上げ分が得られる。この値上げ分はいくつかの特徴による価格の和である。したがって複数の新技術を採用した場合、その価格を分配しなければならない。この場合、他社と共通する改良点については、従来のヘドニック・アプローチによる係数を算出して、それによる比例配分ができる。そして残った部分がその企業が独占して持っている特許(または先発した技術)に対応している。
先に述べたミノルタの事例は、ハネウェル社の特許権にミノルタのα7000及び、その後続の機種が抵触した事例である。写真機の自動焦点調節は比較的に特許権が抽出しやすい。それでまずこの事例について検討する。ついで同じカメラの分野から、超音波モーターを搭載したキャノンのEOSについて検討する。
α7000
一九八〇年代は、写真機に小型コンピュータを組み込むことによって、写真機の諸調節の自動化が急速に進んだ時代である。始めに、明るさを検知して露出やシャッター時間の調節をするものが登場し、それが逆光時の補正や中心測光など、様々な改良を生み、ついで焦点調節の状態を判定するものが現れ、最後に自動焦点調節(オートフォーカス)のカメラが生まれた。これらの機構はレンズ交換式の高級カメラで実現し、さらにレンズもズームに移行していった。
レンズが交換されるので、露光量にせよ、焦点調節にせよ、全て交換されたレンズを通してでなければ測定できない。したがって測定素子も、それによる制御も共に、電子回路による高度な処理を必要としたのである。
α7000はオートフォーカスを搭載したので、その売れ行きは爆発的であった。他の企業も当然のことながらこれに追随した。ただミノルタはこの成功が裏目に出て、ハネウェル社から特許権侵害の提訴を受け、すでに述べたような損害賠償を支払うこととなった。この特許料はアクセサリーを全て含めたメーカーの出荷額のおよそ一三%であるから、市場価格が分からないけれど出荷価格の二倍として、市場価格の八%程度である。
ここでの分析は、果たしてその額が妥当か否かという検討の資料にもなるが、直接それには触れないことにする。
ここで分析の対象として用いたのはα7000発売当時の各社の写真機である。なお価格は標準レンズ付き価格とし、巻き上げモーターがついているものは原則として除外した。
当時の市場価格が不明なので、ここでは標準価格に一定の値引率を掛けたものを推定値として用いる。なお標準価格は毎年開かれるカメラショウで配られる『カメラ総合カタログ』を使用している。
市場価格を標準価格(C)から求めることとし、新製品の市場価格(F)は、ニコンが標準価格の一割引、他社が標準価格の二割引とし(D)、前年かそれ以前に発売の製品は技術が陳腐化するので、それからこの割引き価格からさらに九%を差し引いた(E)。つまり市場予想価格Fは標準価格(C)×係数(D)×係数(E)である。
これらの設定はあくまで勘であるが、ニコン製品が価格を変更せず、おまけが一割程度、他社製品は大幅に割り引いていたので、取りあえずこのようにする。また前年以前の発売のものも、前年発売と同じに計算した。このCDEを掛ける作業は、市場価格を調査できないから行った計算なので、本来は不要である。
以上の分析値を表五ー一に示す。なおこの表では複数の製品を載せていない企業の製品には後で述べるNをつけていない。
★表一〇「α7000の技術的特徴に対応する価格の分析」
(1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) (8) (9) (10)
MANUFACTURER GOODS CTG. PRICE EST. PRICE C+N N 0.03 0.07 0.1
OLYMPUS OM-4 ACN 139000 0.8 1 111200 62240 60800 1824 4256 6080
OLYMPUS New OM-2 AC 70000 0.8 0.9 50400 1440 0 0 0
CANON New F-1 AC 149000 0.8 0.9 107280 58320 0 0 0
KONICA FT-1 MOTOR AC 72000 0.8 0.9 51840 2880 0 0 0
NIKON F3AF AUTOFOCUS ACN 330000 0.9 1 297000 248040 98550 2956.5 6898.5 9855
NIKON F3T AC 245000 0.9 0.9 198450 149490 0 0 0
MINOLTA XD AC 78000 0.8 0.9 56160 7200 0 0 0
MINOLTA α 7000 ACN 123000 0.8 1 98400 49440 42240 1267.2 2956.8 4224
ASAHI Pentax SUPER A A 68000 0.8 0.9 48960 0 0 0 0
ASAHI Pentax LX
(with lens estimated) ACN 112000 0.8 1 89600 40640 40640 1219.2 2844.8 4064
RICOH XR-S AC 68500 0.8 0.9 49320 360 0 0 0
RICOH XR-P ACN 82000 0.8 1 65600 16640 16280 488.4 1139.6 1628
FUJI-PHOTO AX-5 AC 68600 0.8 0.9 49392 432 0 0 0
この表について説明しよう。ここではまず複数企業の複数の機種の標準価格からそれぞれの市場価格を推定して算出し、それから新しい技術の特徴に対応した価格の値上げ分を算出している。本来は全ての機能の特徴について項目を立て、その変数を出すべきであるが、ここでは作業を簡単にするために、企業毎に製品の新特徴を一括して求めている。
表の特徴の項(B)で、A は各社製品に共通の要素を持った機種の価格、つまり技術的な面から見た基準価格であり、C は企業のブランドや販売機種の仕様による偏差、N は機種毎にその年の新技術に基づく価格の上昇分を表している。A はここでは全体での最安値機種の価格であり、旭光学ペンタックススーパーAの市場価格四八九六〇円のものが採られている。この基準価格分をそれぞれの製品価格(F)から差し引く。それがC である。本来はブランド機能の特徴と機種の系統による特徴を分けるべきであるが、ここではそれを一括してあり、各社製品の安値機種の旭光学のペンタックススーパーAからの差になっている。この値は各社毎に異なる。次に各社の機種間の差を出す(H)。ここではN の表示のある方が新しい機種で、それのないものより高額である。旭光学の場合、ペンタックススーパーAに対して上位機種LXがどれだけ高いかを数値化している。
ここでもう一度説明し直しておこう。各社の最新モデルの機種の価格はA+C+Nであって、それぞれの数値の意味は次の通りである。
A 基本的な特徴を全て備えた製品の市場価格。ここでは一番最安値の旭光学のペンタックススーパーAの市場価格
C 各社の同じ様な製品の系統の機種で最安値のものからA を引いたもの。オリンパスの場合、New OM-1の旭光学ペンタックススーパーAからの差
N 各社の最新モデルの新技術に対応した市場価格。オリンパスの場合、OM-4の市場価格の New OM-1の市場価格からの差
なおここでは複数の機種を比較していない企業の製品についてはCを省略している。そしてこれから着目するのはN 、つまりHの欄の数値である。
それでN 値を検討すると、N 値を増やしている機種は旭光学のLX、オリンパスのOM-4、ニコンのF3AFオートフォーカス、ミノルタのα7000、リコーのXR-Pの五機種である。
なおN 値は、既に述べたように、本来はいくつもの特性に対応した係数に分割して考える必要があるが、ここではまとめて一つにしてあるので、これらの機種は何らかの新しい技術が付加されたことによって値上がりしていることになる。
このうちオリンパスと旭光学の機種はすでに発売している製品であり、ニコンの機種もミノルタα7000の前年の発売である。そしてニコンのF3AFオートフォーカスとミノルタのα7000がオートフォーカスを採用している。
両者の価格などを取り出して、表五ー二に示す。この表の中でN を求めるのが重要なので、その積もりでご覧頂きたい。
表五ー二「オートフォーカスを搭載したカメラの価格分析」
企業名 機種 特徴 標準価格 推定市場価格 C+N N 特許料3% 10% @ A B C F G H I J ニコン F3AFオートフォーカス ACN 330000 297000 248040 98550 2956.5 9855 ミノルタ α7000 ACN 123000 98400 49440 42240 1267.2 4224ここでN値を比較すると、ニコンF3AFの九八、五五〇円とミノルタα7000の四二、二四〇円が、新技術によって値上げしていることになる。新技術にはオートフォーカスは当然含まれるが、他の要素、例えばレンズの向上とか、他の操作性の改良なども含まれる。その分析はパテントマップによる新技術特許権の抽出と、市場での値頃感を合わせて検討しなければならないので、ここではそれを指摘するに止める。
超音波モーター
次に超音波モーターの事例を検討しよう。このモーターは小さくて制御性がよく、力が強いので、耐久性が得られれば写真機のモーターとしては最適である。
前の例と同様、写真機の価格は標準レンズのついているものの価格を採るが、超音波モーターはキャノンの場合レンズに組み込まれていたので、標準、広角、望遠の三種のレンズでも検討する。なお、超音波モーターをレンズ鏡筒に組み込むと、望遠や広角などいくつものレンズを交換するシステムカメラでは割高になるので、このやり方は現在ではほとんど用いられていない。
★図五ー一「EOS650の超音波モーターの基本構成」写真工業5/1987・90頁
★表五ー三「超音波モーター組み込みカメラのの技術的特徴に対応する価格の分析」

★表五ー三「超音波モーター組み込みカメラのの技術的特徴に対応する価格の分析」
数値は表五ー二に示してあるので、ここでは結論だけ述べよう。なお先に述べたように複数の製品を比較していない企業の製品には Nをつけていない。キャノンが超音波モーターを搭載した写真機はEOS650であるが、超音波モーターはこの時期レンズ鏡筒に組み込まれていたので、ボディーとレンズの合計金額で見ないといけない。それでこの機種とそれ以前のほぼ同額の機種であるAー1について標準的なレンズを装着した価格で比較しよう。
機種 特徴 標準価格 推定市場 C+N N 特許料3% 10%
A B C F G H I J
ボディー EOS650 ACN 80000 64000 4240
レンズ EF35-70mmF3.5-4.5 ACN 38000 30400 9520 5200 156 520
小計 合計 118000 94400 13760 5200 156 520
ボディー A-1 A 83000 59760
レンズ FD35-70mmF3.5-4.4 AC 35000 25200 4320 0 0 0
小計 118000 84900 4320 0 0 0
この表で見ると、合計価格ではほとんど値段が開いていない。むしろレンズを値上げして、その分ボディーを値下げしているのが分かる。しかしレンズを採ってみると五二〇〇円の値上がりとなっている。機種 標準価格 推定市場 C+N N 特許料3% 10% A C F G H I J 二八ミリ広角 FD28mmF2 64500 51600 30720 26400 792 2640 *EF28mmF2.8 36000 28800 7920 3600 108 360 FD28mmF2.8 35000 25200 4320 0 0 五〇ミリ標準 *EF50mmF1.8 23000 18400 4000 2560 76.8 256 FD50mmF1.8 22000 15840 1440 0 0 二〇〇ミリ望遠 *EF135mmF2.8 52000 37440 14040 9360 280.8 936 FD200mmF4 39000 28080 4680 0 0 二八−八〇ミリズーム *EF28-80mmF2.8-4.0L 129000 103200 57600 47040 1411.2 4704 FD28-85mmF4 78000 56160 10560 0 0 三五−七〇ミリズーム *EF35-70mmF3.5-4.5 38000 30400 9520 5200 156 520 FD35-70mmF3.5-4.4 35000 25200 4320 0 0これで見ると、キャノンは普及型の広角や標準レンズの価格は抑えて、機体とズームの組み合わせという商品のコンセプトを選んでいるように思われる。したがって特許料の算定は機体とレンズ(主にズーム)を中心に算定する必要があり、前述の組み合わせでは特許料を三%として一五六円、一〇%として五二〇円、それにボディーの分としてここでは算出されていない額を合わせたものとなる。
新生工業 キャノン
USR60-E4 UA-40/TR-36
駆動周波数 四〇KHz 五八KHz
回転速度 九〇rpm 三〇〇RPM
最大トルク 三・二Kgf・cm 〇・六Kgf・cm
耐久時間 一〇〇〇時間 不明
使用温度範囲 −一〇℃ー+五五℃ 不明
モーター 九五〇〇〇円
ドライバ 八五〇〇〇円
合計 一二〇〇〇〇円 一八〇〇〇〇円
いまEOS650とズームレンズEF28−40Lの組み合わせが売れたとしよう。このときの特許料は五二〇円であるから、一〇万台売れたとし五二〇〇万円である。次に新生工業とキャノンの超音波モーターがそれぞれ同数売れたと仮定しよう。
商品価格が下がる場合
次に問題となるのは、技術的改良によって従来製品の価格が下がる場合である。製造方法の改良とか材質の改良など、いわゆるコスト削減による価格低下である。
このような場合には、多くの経済学の教科書が示している方法がそのまま適用できる。つまり原価が小さくなった分がそのままは市場価格に反映されず、やや上積み分があるので、これを市場価格内の分与で考えて、そこから特許料を取るのである。
例えばある改良で製品原価が五〇〇〇円下がったとしよう。製品は五〇〇〇円ではなく三〇〇〇円値下げして卸売りされる。市場価格がこの二倍であるとすると、価格は六〇〇〇円下がる。本来五〇〇〇円の二倍の一万円下げるべきであったから、その差は四〇〇〇円になる。これに一定比率を掛ければ特許料が得られる。
コンピュータソフトウェアの著作権料
一番面倒なのが著作権である。著作物にはどこが新規であるという様な基準がない。全部を自分で作った、というのが著作権の特徴である。したがって特定の機能についての特許のような考え方ができない。しかし従来からあるプログラムと同じものを作っても、それは売れないから、資産価値がない。したがって価格の分析は行わなければならない。
この場合も類似機能のプログラムとの比較が真っ先に来て、それからヘドニック量を算出する。
従来のプログラムと同一機能の部分については、特許における製造工程の改良と同様の考え方が適用できる。つまりその価格低落分にそのプログラム採用の価値が生じる。
一方付加機能がある場合は、特許における付加機能の価格評価がそのまま使える。
いま従来からの表計算プログラムがあって、その市場価格を五万円としよう。ついで別のプログラムが現れて、デスクトップパブリッシング(DTP)の機能を載せて、六万円だとしよう。
後のプログラムの価格を分析して、表計算分が三万円、DTP分が三万円とする。そうすると、表計算の価格低下分二万円とDTPの三万円の合計五万円が、このプログラムを市場価格から見た場合の資産価値の基準となる。
このようにして、製品の市場価格から特許に対する分配量を算出すると、非常に客観的かつ公平な値が得られることになる。
ただプログラムの場合注意が必要なのは、二番手のプログラムが一番手のプログラムに対して極端に安くなることである。ある機能を持った最初のプログラムが五万円で売られているとき、二番目のプログラムは一万円程度であり、さらに遅れるとフリーソフトウェアとしてて無料になってしまう。
だから特にプログラムについては、市場調査による相対比較がゆるがせにできない。